創立記念式典のあいさつより
6月8日は、学校法人常葉大学の創立記念日です。常葉大学は、県下最大規模の総合大学に成長しましたが、常葉の始まりは、いまから79年前、1946年に開校された、静岡女子高等学院という小さな女学校でした。その女学校こそが、私達の学校であり、「常葉」発祥の地にあたります。来年度は、創立80周年になりますので、みんなで盛大にお祝いをしたいと思います。今日は、開校当時の様子やこれまでの歴史をみなさんにお話し、創立の原点に立ち返りたいと思います。
みなさんは、第二次世界大戦を知っていますか。1939年から1945年まで続いた戦争で、世界中で争いがありました。戦闘や爆撃によって多くの人が亡くなりました。戦争の原因は複雑ですが、軍事力や領土の争い、イデオロギーの対立などが絡んでいました。広島、長崎に原爆が落とされて、1945年8月15日、日本は終戦の日を迎えます。
そのわずか10か月後に、常葉の前身である、静岡女子高等学院が開校されました。当時、日本はアメリカ進駐軍の支配下にありました。静岡の町も焼け野原の状態で、食べる物も着る物も十分に手に入れることができない時代でした。敗戦によって、誰もがどん底の状態にありました。そんな時に、創立者、木宮泰彦先生は、60歳という還暦を迎える年齢で、旧制静岡高校、今の静岡大学の教授の職を辞めて、学びの機会を探し求めていた多くの女性たちのために、私立の学校を設立しました。
今年は、国際交流について、話をしたいと思います。
おとといから、アメリカのネブラスカ州にある、静岡市と姉妹都市である、オマハ市のElkhorn High Schoolから、16名の生徒さんと、3名の先生方、2名の保護者の方々が本校を訪問しています。みなさんの中には、ホームステイを引き受けてくれたり、クラスのバディさんとして、市内を案内してくれたり、茶道や剣道を一緒に体験してくれた人たちもいます。昨日、ほんの1日でしたが、どのクラスにも、どの場面にも笑顔がいっぱいで、楽しく交流をする姿があって、とても嬉しくなりました。
本校は、昔から国際交流がとても盛んでした。
もうずっと昔ですが、私が高校1年生の春休みに、アメリカのニューヨーク州のロチェスターという町にある、Our Lady of Mercy High School というカソリックの女子校に、1か月半ほどの海外研修に参加しました。人生初めての飛行機に、初めての海外でした。1つ思い出を紹介します。数学の宿題をホストの子たちと一緒にやっていました。割と簡単な問題ばかりだったので、どんどん解いていると,“You’re smart!”と言われました。当時の私は、どちらかと言えばぽっちゃりと太っていたので、全然スマートじゃないのになあと不思議に思った記憶があります。あとになって、smartには別の意味があることを知りました。こんな風にして、ますます英語を勉強したいという気持ちが強くなりました。この学校とは、15年近く、交流が続き、たくさんの常葉生が、現地の学校で学びました。Mercy High Schoolからも生徒たちが本校を訪問してくれて、夏の花火やBBQなど一緒に楽しんだ思い出があります。
今のようにネットがある時代ではなかったので、Air mailという航空便で手紙を書いて交流をしたこともなつかしい思い出です。教員になってからも、訪問する機会がありました。岩堀先生と一緒に生徒たちを引率し、薄暗いシスターの寄宿舎に滞在したこともいい思い出です。生徒たちだけでなく、教員も海外に出かけることで、多くの学びを得ることができた時代でした。
昭和から平成になって、「国際コース」という新しいコースができました。今から、35年くらい前です。バブルが崩壊する前ですから、日本は経済的にとても豊かな時代でした。修学旅行は、イギリスやフランス・パリに行ったり、第2外国語として、フランス語やスペイン語を学んだり、とても華やかな時代でした。常葉学園も、3年おきに、「国際青少年音楽祭」というイベントを行っていました。世界中から、演奏家が集まり、音楽を通して交流を楽しみました。
平成16年に、国際コースに代わる「Global Studies Course」というクラスができました。英語を通して、自分自身を語る、日本を知る、世界に関心をもつ、他者を受け入れる、主体的にものごとに取り組む、いつでもワクワクした目標を設定して楽しむ‥・そんなコースができました。1年間、オマハ市にある学校に留学できるシステムもあり、今来日している、Elkhorn High School にも何人もの留学生を受け入れてもらいました。
ここに、昔の「校誌 とこは」があります。イギリス研修に行ったときの様子が書かれていますので、紹介します。
私はこのイギリス研修で新たな自分を発見することができた。それは失敗を恐れずに積極的に行動する自分であった。イギリスに行く前の自分は、失敗を恐れて、失敗したときの練習ばかりしていたが、イギリスへ行くと前だけを見て進んでいく自分がいた。こうした自分に出会い、日本へ帰ってきたら自分に自信がもてるようになっていた。2週間という短い期間で、新たな自分を発見できたことは、正直自分でも驚いた。(H26 T.A)
バディと過ごした学校生活で私は、とても大事なことを学んだ。それは、失敗を恐れずに挑戦することだ。誰にだって失敗はある。ただ、同じ失敗を繰り返さなければいい。初めからうまくいく人なんでいないと、頭の中では理解していたつもりだったけど、実際に間違っているのが恥ずかしいと思い、自らバディとの壁を作ってしまった。これから苦手なことや自信のないことに直面した時、この経験を思い出して、失敗を恐れずに挑戦し、全てを自分の力に変えていきたい。(H25 K.M)
何年か分の「校誌とこは」を読んで、驚いたのは、みんな海外での経験を通して、「失敗を恐れずに挑戦すること」の尊さを語っていました。異文化に飛び込む不安もあるけれど、挑戦する自分がいるということです。
現在、日本の経済は、とても厳しい状況です。主食のお米すら充分に手に入らない、病院経営が立ち行かないと救急患者の受け入れを止める、道路や橋などのインフラを整備する資金も十分にありません。日本円の価値が下がっているので、海外旅行も以前のように気楽にいける金額ではなくなっています。日本の若者のパスポート保有率は、17%だそうで、アメリカの50%、韓国の40%に比べるととても低いです。年々海外に行きたい意識の若者が減っているそうです。
ICT環境が充実した現在、必ずしも海外にいかなくても、他国の様子を知ることはできます。オンラインでつながることもできます。以前のように、海外で研修を積むことができなくても、私たちが視野を広げて、国際問題に関心をもち、自分たちとの関係性も含めた意識、グローバルマインドが育つことが大切だと感じます。
ただ、これまでの常葉生が、実際に海外に出て多くの経験を積むことができたように、みなさんには、近い将来ぜひパスポートをもって、異文化体験を楽しんで欲しいと思います。
Students from Elkhorn, are you all enjoying your stay in Shizuoka? I hope all of you have a great time together.